昨日見た夜空のことを考える。嘘、空なんて見えなかった。先週梅雨入りが宣言されて、フライングしていた五月の夏日が嘘のように、ひんやりした天気が続いている。

 昨日は一日雨だった。バラバラと鳴る雨粒にアスファルトは濡れ切って、夜のネオンをきらきらと弾いていた。道路のくぼみのあちこちにできた水たまりが、信号や街灯やビルの光を含んで、滲み、乱反射する様をみて、オーロラのようだと思った。

 砕かれた石や、砂の粒や、遠いどこかで掘り返された哀れな土たちが、人工物に混ぜられ敷き詰められた黒い地面は、冷たく沈黙し、人々の足音を吸収する。雨の薄膜に映る夜空は、決して石粒たちの前に姿を表すことはない。

 帰路を急ぐ人間どもに踏みしめられる藍色の空は、ものも言わず、雨音だけを響かせながら、せわしない駅前の雑踏を映していた。